娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

予備試験H24民事実務基礎科目

第1.設問1

1.(1)について

(1)足りると考える。

(2)Yは「相殺する」と発言していることから、本件抗弁は相殺(民法505条1項)の抗弁である。相殺の抗弁の要件は、a相対立する債権の存在、b「同種の目的」、c「双方の債務が弁済期にある」、d「債務の性質がこれを許」すこと、e「反対の意思」(同2項)がないこと、f相殺の意思表示(民法506条1項)である。もっとも、aについて受働債権は請求原因で主張されており、自働債権の主張で足りる。bもaの主張で明らかになるため不要である。cについて、受動債権の弁済期は請求原因で主張されており、自働債権の弁済期は付款である。よって、cは必要ない。dとeはそれぞれ但書、2項という位置づけから再抗弁に回る。よって原告は、㋐自動債権の発生原因事実、㋑相殺の意思表示をする必要があり、㋐㋑で十分である。

 本件では、⑤⑥は㋐に、⑦は㋑にあたり、必要十分といえる。

2.(2)について

(1)抗弁とは、請求原因から発生する法律効果を障害・消滅・阻止する事実の主張である。

(2)Yの相談内容の中には、最終段落にXが修理費用を支払うまで甲建物を明け渡さないとの主張がある。これは留置権(295条)によってXの建物明渡請求権を阻止するものであるから、留置権の抗弁を主張することになる。

第2.設問2

1.本件ではPは「否認する」と述べており、その理由を述べなくてはならない(民事訴訟規則145条)。領収書には日付、金額、何としての受領なのか、名前が手書きでされている。これらの事項は民訴228条4項によって真正が推定されるため、推定を覆すべくPはどの事項について否認するのか、なぜ否認するのかを述べさせるべきである。

第3.設問3

1.被告は、原告に対し、甲建物を明け渡せ。

2.理由は以下の通りである。本件では⑥の事実について150万円の支払いと金額の相当性が認められており、YはXに対して150万円の必要費償還請求権(民法608条

1項)を有する。次に、⑦の事実について相殺の意思表示は本件契約の解除の後に行われている。確かに相殺の意思表示は遡及効民法506条2項)を有するが、解除権者の保護の見地から、これは先にされた解除をも消滅させるものではない。よって、本件契約の解除は有効である。そうすると、Yは甲建物について占有権限を有しないから、明渡請求が認められる。最後に、⑧の事実につていて30万円の弁済が認められており、必要費150万円-賃料120万円=30万円も消滅している。

第4.設問4

1.(1)について

 本件では、Aは共同法律事務所の同僚Bから顧問先R社の倒産に関する情報を知るに至った。そのような経緯がある中でSに経営状態を説明することは弁護士職務基本規定(以下、規定)56条前段に反しないか。「正当な理由」の意義が問題となる。

(1)同条の趣旨は、共同事務所内の他の弁護士の依頼者について知った秘密について、秘密漏洩を禁止し、弁護士職務の信頼を保持する点にある。そうすると、「正当な理由」とは、そのような信頼保持を犠牲にしてもなお利用の必要性が認められる場合のことを言う。

(2)本件では、AはSが義父であることから助言するに至っている。確かに親族の不利益回避のためにR社の情報を解禁する必要性が高い。しかし、このような解禁が頻発すればAのみならず日本中の弁護士の職務への信頼が低下してしまう。よって、職務への信頼を犠牲にすべきほどの必要性は認められず、「正当な理由」はない。よって、Aの助言は規定56条前段に反する。

(3)同様にして、規定23条にも反する。

2.(2)について

 本件ではAは弁護士登録を取り消しているからもはや弁護士ではない。そうすると規定56条後段に取締役会の発言が違反しないかが問題となる。

(1)同後段の趣旨は、弁護士を辞めた後も弁護士の記憶に残る開示すべきでない情報の開示を禁止し、弁護士に対する信頼を確保する点にある。そうすると、上記規範で判断すべきである。

(2)本件では取締役としてAは意見を求められている。確かに取締役は忠実義務(会社法355条)を負うことから、倒産について意見を述べるべきとも思える。しかし、やはりこのような事態が頻発すれば弁護士の職務に対する信頼が低下してしまう。よって、「正当な理由」はなく本発言は規定56条後段に違反する。

(3)同様にして、規定23条にも違反する。

以上。