娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

事例演習刑事訴訟法 設問12

1.まず、「被疑者」乙は、「弁護人」甲と接見できる(刑事訴訟法(以下略)39条1項)。

2.もっとも、Pによる本件接見指定は「公訴の提起前」であるとしても、「捜査のため必要があるとき」という要件を満たすか(同条3項本文)。

(1)同本文の趣旨は、捜査の必要性と憲法34条前段の要請を受けて規定された接見交通権(39条1項)の調整を図る点にある。そのような憲法上の要請がある以上、同3項は解釈されるべきである。そうすると、「必要があるとき」とは、被疑者を取り調べ、若しくは実況見分、検証に立ち会わせている場合又はこれらを行う確実な予定がある場合等、接見によって捜査に顕著な支障が生じる場合をいう。

(2)本件では、Pは現に乙を取調べ中であったため、Pから重要な供述をとることができる状況があった。このような状況の下で捜査が中断されれば、そのような供述をとれないという捜査への顕著な支障が生じる。よって、「必要があるとき」といえ、本件接見指定自体は適法である。

3.そうだとしても、本件では初回接見が問題となっている。これが制限されることは、「被疑者が防御の準備をする権利を不当に制限するようなもの」(39条1項但書)といえないか。

(1)初回接見は、被疑者が弁護人を選任し、これから捜査機関の捜査を受けるにあたっての助言を得るための最初の機会である。このような重要な意味に照らすと、接見指定をする者は弁護人と協議して即時又は近接した時点でも時間を指定すれば顕著な支障が生じることを避けられるかを検討し、それが可能であるときはたとえ比較的短時間であっても、管理運営上の支障等の特段の事情がない限り、初回接見を認めるべきである。そうすると、接見指定をする者が上記協議を怠った場合には、「不当」な「制限」となる。

(2)本件では、Pは甲と協議することがなかったため、上記協議がない。よって、「不当」な「制限」が認められるため、本件指定は違法である。

以上

事例演習刑事訴訟法 設問11

第1.おとり捜査への該当性

1.おとり捜査とは、捜査機関又はその依頼を受けた捜査協力者が、その身分や意図を相手方に秘して犯罪を実行するように働き掛け、相手方がこれに応じて犯罪の実行に出たところで現行犯逮捕等により検挙する捜査手法をいう。

2.本件では、捜査機関である警察に属する警察官Kの依頼を受けた捜査協力者Sが、Sの警察へ協力する意図を秘してXに覚せい剤売買という犯罪を実行するように働き掛け、Xが経てるに現れたところを現行犯逮捕しており、本件捜査はおとり捜査にあたる。

第2.おとり捜査の適法性

1.おとり捜査は「強制の処分」(刑事訴訟法(以下略)197条1但書)といえ、法律の根拠規定を要しないか。

(1)現行刑訴法の「強制の処分」である逮捕(199条1項)、捜索、差押え、検証(218条1項)等は、憲法33条、同35条1項が保障する程重要な権利利益を制約する処分である。このような「強制の処分」から厳格な手続きで保護されるには、それらと同等の重要な権利利益が制約される必要がある。そうすると、「強制の処分」とは、①相手方の意思に反し、②重要な権利利益を制約する処分である。

(2)確かにおとり捜査は対象者の黙示の意思に反する(①)。もっとも、対象者は最終的に自らの意思決定に基づいて犯罪の実行に出るのであり、重要な権利利益の制約はなく、②といえない。よって、おとり捜査は「強制の処分」といえない。

2.もっとも、本件おとり捜査によってXの意思決定の事由は多かれ少なかれ侵害される。そこで、本件おとり捜査は「目的を達するため必要な」(197条1項本文)限度でのみ許される。そこで、①直接の被害者がいない薬物犯罪等の事件について、②通常の捜査方法のみでは当該犯罪の摘発が困難である場合に、③機会があれば犯罪を行う意思があると疑われる者を対象におとり捜査を行うことは、少なくとも許される。

 覚せい剤所持は直接の被害者がいない薬物犯罪である(①)。また、本件ではXの覚せい剤の場所を警察が鋭意捜査しているが、これを把握できなかったため、通常の捜査は尽くしたといえ、通常の捜査方法ではXの事件を摘発することは困難である(②)。そして、Xは覚せい剤の売却先を探している者であるため、機会があれば覚せい剤を売ろうとしているため、機会があれば犯罪を提供する意思があると疑われるものである(③)。よって、「必要な」限度であるため、適法である。

3.以上から、本件おとり捜査は適法である。

以上

事例演習刑事訴訟法 設問10

第1.(1)について

1.本件では、KがGという「被疑者を逮捕する場合」(刑事訴訟法220条1項柱書前段)といえる。また、GとXがいたのは411号室という「逮捕の現場」(220条1項2号)である。もっとも、Gが逮捕された場合に第三者Xの身体を捜索差押えすることは同3項により許されるか。

(1)同項、同1項2号の趣旨は、「逮捕の現場」では類型的に証拠存在の蓋然性が高いことから、事前審査を経るまでもないため令状主義の例外を定めた点にある。そうすると、類型的に証拠存在の蓋然性が高くない者である第三者の身体は捜索差押え対象に含まれない。

(2)本件でも、第三者Xの身体は捜索できない。

2.もっとも、「必要な処分」(222条1項本文、111条1項前段)として上記捜索差押えは許容されないか。

(1)同前段の趣旨は、捜索差押え手続に付随する処分を認めた点にある。そうすると、「必用な処分」とは、捜索差押えに①必要かつ②相当な範囲の処分をいう。

(2)本件では、確かにXは右手をズボンのポケットに仕入れたまま出そうとしておらず、Gの証拠を隠そうとしているとも考えられる。しかし、右手をポケットに入れることは一般的な人もするため、格別怪しげな行動ではない。そうすると、捜索差押えに必要な行為とは言えない。

 一方で、本件ではXの抵抗を有形力で排除して、ポケットという通常人が見られたくない部分が捜索されており、Xの不利益は重大である。

 したがって、「必要な処分」ともいえない。

3.以上から、本件捜索差押えは違法である。

第2.(2)について

1.本件では、LはYを「逮捕する場合」(220条1項柱書前段)といえ、「必要があるとき」といえる。もっとも、公道上ではない警察署は「逮捕の現場」(220条1項2号)といえず、捜索差押えは同3項により許されないのではないか。

(1)同項、同1項2号の趣旨は、証拠存在の蓋然性が類型的に高いことから、事前の司法審査の必要性がないため、令状主義の例外を定めた点にある。被疑者の身体・所持品による捜索・差押えであれば、証拠存在の蓋然性に変化はない。また、法定の強制処分では付随的措置が可能である。そうすると、①被疑者の身体・所持品に対する捜索差押えであり、②その場で直ちに捜索差押えすることが不適切である場合は、③速やかに被疑者を捜索差押えに適する最寄りの場所に連行した上でこれらを行うことも、「逮捕の現場」における捜索差押えと同視できる。

(2)本件では、Yの身体・所持品への捜索差押えである(①)。また、2キロメートルしか離れてない警察署は捜索差押に適する最寄りの場所である(③)。よって、被疑者の名誉を害すること、被疑者の抵抗による混乱、又は交通を妨げることを防止する等の②に関する事情があれば本件捜索差押えは「逮捕の現場」での捜索差押えと同視できるため、適法である。

以上

事例演習刑事訴訟法 設問9

1.本件では、捜索差押許可状(刑事訴訟法(以下略)218条1項本文)に基づかないで天秤、注射器、ビニール袋(以下、本件対象物)を差し押さえているため、同本文のみによれば違法である。

2.もっとも、KはXを覚せい剤所持の現行犯人(212条1項、2項)として逮捕しており、令状によらない捜索差押え(220条1項2号、3項)は許されないか。

(1)本件では、「現行犯人を逮捕する場合」(同1項柱書前段)といえる。

(2)もっとも、Xが逮捕されたのは応接間であり、本件対象物は寝室にあったものである。ここで、「逮捕の現場」(同項2号)といえるかが問題となる。

 ア、同号、同条3項の趣旨は、「逮捕の現場」には類型的に証拠存在の蓋然性が高いため、事前審査を必要としない点にある。そうすると、実際に令状発付があったときと同様に考えるべきであり、「逮捕の現場」とは、逮捕された場所と同一の管理権が及ぶ場所を指す。

 イ、本件では、XはX方の応接間で逮捕されている。同応接間はX方の管理権に属する。そうすると、「逮捕の現場」の範囲はX方全体に及ぶから、寝室も「逮捕の現場」に含まれる。

(3)ここで、本件対象物は「差押」(同1項2号)対象物に含まれるか。

 ア、同号、同3項の趣旨は上記のものである。そうすると、「差押」対象物は被疑事実と関連性を有する物に限られる。

 イ、天秤は覚せい剤の量を計測するために必要であるため、覚せい剤所持と関連性を有する。また、注射器は覚せい剤を体内に取り込むため位使われるため、覚せい剤所持と関連性を有する。そして、ビニールは覚せい剤の保管に用いられるため、覚せい剤所持と関連性を有する。

(4)以上から、本件捜索差押は適法である。

以上

事例演習刑事訴訟法 設問8

第1.BからのUSBの捜索について

1.本件では、A会の東京本部事務所に対する捜索差押許可状(刑事訴訟法(以下略)218条1項)が発付されており、これに基づいてKはBからUSBを捜索できないか。令状による捜索差押えの範囲が問題となる。

(1)令状主義(同項、憲法35条1項)の趣旨は、事前の司法審査によって不当な人権侵害を防止する点にある。場所のプライバシーと身体のそれは別個であるため、場所に対する令状で身体への事前審査がされたといえず、場所に対する令状で身体への捜索はできない。

(2)本件でも、本件令状は場所に対するものであるから、それに基づく上記捜索は許されない。

2.もっとも、上記捜索は「必要な処分」(222条1項本文、111条1項前段)として、許容されないか。

(1)同前段の趣旨は、捜索差押えの実効性確保に必要な付随処分を認める点にある。そうすると、「必要な処分」とは、捜索差押えに①必要かつ②相当な範囲の処分をいう。

(2)本件では、KはBがそわそわしてパソコンから何かを取り出して100mも逃げ出したのを目撃している。これは捜索差押え実施中の出来事であるから、Bは証拠物を隠滅しようとしていたことが強く疑われる。証拠が隠滅されると、捜索差押えを実施できなくなるため、上記捜索は必要性が高かった。

 一方で、確かにKはBの背中を甲同条に押さえつけるという重大な有形力行使をしている。しかし、道路に押さえつけられたとしてもBに怪我をさせたということはなく、KのBに対する有形力行使はやむを得ない程度に収まっていたため、Bの不利益も少ない。

3.以上から、「必要な処分」として上記捜索は許される。

第2.Lが発見したUSB2本とBが持っていたUSBの差し押さえについて

1.本件では、Lは上記USBの内容を確認することなく本件捜索差押許可状に基づきこれらを包括的に差し押さえているため、その適法性が問題となる。

(1)令状主義の趣旨は上記のものである。そうすると、裁判官だけでなく捜査機関も被疑事実と物の関連性を審査すべきであるため、原則として内容の確認をしない包括的差押えは令状主義違反となる。もっとも、「正当な理由」(憲法35条1項)は一義的に決まるものではなく、捜査の必要性と対象者の不利益との衡量において決まる。そうすると、①その物の内容に証拠が存在する蓋然性が高く、②内容確認が困難な事情があれば内容確認のない差押えも許される。

(2)本件でも、原則として許されない。もっとも、USB2本については「重要資料」と書かれた封筒の中に入っていたため、証拠物であるA会の無限連鎖講に関する秘密が記録された媒体が入っている蓋然性が高い。また、上記Bのやましい行動からしてBのUSBも証拠である蓋然性が高い(①)。また、Lがフロッピーディスクを調べたところ、消去ソフトが組み込まれていたため、上記USB3本にも同様の細工がしてある可能性がある。そうすると、証拠確保の見地から内容確認が困難な事情があるといえる(②)。

2.したがって、令状主義に反しないため、上記差押えは適法である。

以上

事例演習刑事訴訟法 設問7

1.「東京都…所持品」との記載は、「捜索すべき場所、身体若しくは物」(刑事訴訟法219条1項)の記載として適法か。

(1)同項の趣旨は、令状裁判官による実質的認定を確保し、無差別的な捜索差押がされることを防止するために特定性を要求する点にある。そうすると、原則として人を特定しない概括的記載は原則として許されない。もっとも、その場所に存在する人のすべてに証拠存在の蓋然性があるといえれば、特定性を欠かず、例外的に概括的記載も許される。

(2)本件では、令状上の記載で「同所に在所する者の身体」となっており、人が特定されていない概括的記載であるため、原則として違法である。もっとも、上記のような特段の事情があれば例外的に適法である。

2.「本件に関連する…メモ類など一切の物件」との記載は「差し押さえるべき物」(同項)の記載として適法か。

(1)同項の上記趣旨から、原則として物の概括的記載も許されない。もっとも、①具体的な例示に付加する形で、②被疑事実と関係すること、③例示物件に準じる物件を指すことが明らかであれば、特定性を欠かず例外的に適法である。

(2)本件では、「一切の物」というすべての物を含むような概括的記載がされているため、原則として違法である。もっとも、「一切の物」との記載は「メモ類」との具体的例示に付加されている(①)。また、「本件に関連する」との記載から、本件被疑事実と関係することは明らかである(②)。そして、「メモ類」の直後に「一切の物件」とあるから例示物件に準じる物件を指すといえる(③)。よって、例外的に適法である。

3.よって、YZの身体・所持品への捜索差押えは例外的にのみ適法となりえ、メモ類の差押えは適法である。

以上

事例演習刑事訴訟法 設問6

第1.(1)について

1.本件では、形式的には逮捕・勾留の要件を満たしている(刑事訴訟法(以下略)199条1項本文、同2項但書、207条1項本文、60条1項各号、87条1項)。もっとも、本件では殺人事件について取り調べる目的で窃盗罪の逮捕状が請求されている。ここで、別件逮捕・勾留の適法性が問題となる。

(1)確かに起訴前の身柄拘束期間は、罪証隠滅や逃亡を目的とするため、捜査の状況が身柄拘束の違法性を導くことはない。しかし、起訴前の身柄拘束期間の趣旨は、被疑者の罪証隠滅・逃亡を防止した状態で、身柄拘束の理由とされた被疑事実につき、起訴不起訴の決定に向けた捜査を行う点にある。そうすると、別件を被疑事実とする身柄拘束期間が、主として本件の捜査のために利用されている場合は、別件による身柄拘束としての実体を失い、令状主義(199条1項本文、憲法33条1項)に反し、違法となる。

(2)確かに本件では、Kは逮捕状請求時、窃盗事件の身柄拘束を利用してVに対する殺人事件という別の取調べをすることを意図していたといえる。また、窃盗罪と殺人罪は財産に対する罪、生命に対する罪と質的に異なるものである。しかし、最終的には専ら窃盗事件についてのみ取り調べは行われており、殺人罪の取り調べ時間が占める割合はまったくの0%である。よって、窃盗事件を被疑事実とする身柄拘束期間が主として殺人事件のために利用されたとはいえず、令状主義違反はない。

2.以上から、逮捕・勾留は適法である。

第2.(2)について

1.(2)の別件逮捕・勾留は適法か。

(1)上記規範で判断する。

(2)本件では、確かにKは窃盗事件のみを取り調べる意図しか有しておらず、別件逮捕・勾留の意図は有していなかった。しかし、実際に行われた取り調べでは、捜査方針が転換された結果、上記のように窃盗事件とは全く別の殺人事件について主として取調べがされており、主として殺人事件の捜査のために窃盗事件を被疑事実とする期間が利用されたといえる。よって、(2)の取調べは令状主義に反する。

2.以上から、(2)の別件逮捕・勾留は違法である。

以上