娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

事例演習刑事訴訟法 設問11

第1.おとり捜査への該当性

1.おとり捜査とは、捜査機関又はその依頼を受けた捜査協力者が、その身分や意図を相手方に秘して犯罪を実行するように働き掛け、相手方がこれに応じて犯罪の実行に出たところで現行犯逮捕等により検挙する捜査手法をいう。

2.本件では、捜査機関である警察に属する警察官Kの依頼を受けた捜査協力者Sが、Sの警察へ協力する意図を秘してXに覚せい剤売買という犯罪を実行するように働き掛け、Xが経てるに現れたところを現行犯逮捕しており、本件捜査はおとり捜査にあたる。

第2.おとり捜査の適法性

1.おとり捜査は「強制の処分」(刑事訴訟法(以下略)197条1但書)といえ、法律の根拠規定を要しないか。

(1)現行刑訴法の「強制の処分」である逮捕(199条1項)、捜索、差押え、検証(218条1項)等は、憲法33条、同35条1項が保障する程重要な権利利益を制約する処分である。このような「強制の処分」から厳格な手続きで保護されるには、それらと同等の重要な権利利益が制約される必要がある。そうすると、「強制の処分」とは、①相手方の意思に反し、②重要な権利利益を制約する処分である。

(2)確かにおとり捜査は対象者の黙示の意思に反する(①)。もっとも、対象者は最終的に自らの意思決定に基づいて犯罪の実行に出るのであり、重要な権利利益の制約はなく、②といえない。よって、おとり捜査は「強制の処分」といえない。

2.もっとも、本件おとり捜査によってXの意思決定の事由は多かれ少なかれ侵害される。そこで、本件おとり捜査は「目的を達するため必要な」(197条1項本文)限度でのみ許される。そこで、①直接の被害者がいない薬物犯罪等の事件について、②通常の捜査方法のみでは当該犯罪の摘発が困難である場合に、③機会があれば犯罪を行う意思があると疑われる者を対象におとり捜査を行うことは、少なくとも許される。

 覚せい剤所持は直接の被害者がいない薬物犯罪である(①)。また、本件ではXの覚せい剤の場所を警察が鋭意捜査しているが、これを把握できなかったため、通常の捜査は尽くしたといえ、通常の捜査方法ではXの事件を摘発することは困難である(②)。そして、Xは覚せい剤の売却先を探している者であるため、機会があれば覚せい剤を売ろうとしているため、機会があれば犯罪を提供する意思があると疑われるものである(③)。よって、「必要な」限度であるため、適法である。

3.以上から、本件おとり捜査は適法である。

以上