中大2020刑訴再現
第1.2項の取調べについて
1.同取調べによる身柄拘束は「強制の処分」(刑事訴訟法(以下略)197条1項但書)である実質的逮捕にあたり、令状発付のない本件では令状主義(199条1項本文、憲法33条)違反とならないか。
(1)現行刑訴法の「強制の処分」は憲法33条、35条が保障する権利利益を制約する。そうすると、強制処分法定主義の厳格な手続は、それらと同等の権利利益にのみ及ぶと考えられる。よって、「強制の処分」とは、①相手方の意思に反し、②身体住居財産等の重要な権利利益に対する実質的制約を伴う処分をいう。
(2)2項の取調べは対象者の黙示の意思に反する(①)。確かに同行は午後11時と同項人が家に帰りたい時間に行われている。しかし、同行の態様は相手方の協力を得る形で行われている。また、2項の取調べ中に対象者から退去が求められたことはない。よって、重要な権利利益を制約する処分とはいえず、「強制の処分」といえないため、令状主義違反はない。
2.もっとも、「必要がある」(198条1項本文)といえず、比例原則違反とならないか。事案の性質、被疑者に対する容疑の程度、被疑者の態度等、諸般の事情を勘案し、社会通念上相当と認められる方法ないし態様及び限度で許される。
本件被疑事実は強盗罪(刑法236条)という懲役刑にもなる重罪である。また、犯人と当初から疑われていた甲は、取り調べの最中に客観的事実と異なる発言をしており、甲への容疑が強まっていったため、取調べを継続する必要性は高かった。そして、知っていることは何でも話すと取り調べに協力的な甲からは有益な情報が得られる蓋然性が高い。よって、2項の取調べの必要性は高かった。
一方で、甲は取調室からの退去を求めたことは一度もなく、甲の身体の自由が制約された程度は低い。
以上から、比例原則違反もない。
3.したがって、2項の取り調べは適法である。
第2.4項の取り調べについて
1.公訴提起後の4項の取調べは適法か。
(1)それを禁止する刑訴法上の条文はない。(※197条は公訴提起後の取調べを禁止していない。もっとも、公訴提起後の取調べは、被告人の当事者たる地位に照らして、なるべく避けなければならない。)そこで、任意処分の限界を超えない限り適法であると考える。捜査の必要性、緊急性などをも考慮した上、具体的状況の下で相当と認められるかで判断する。
(2)上記のように甲への取調べの必要性は高い。また、「取り調べをやめてくれ」との甲の要求に対してRは即座に取り調べを中止しており、甲の受けた不利益の程度は小さい。
2.以上から、任意処分の限界を超えず、4項の取調べは適法である。
以上