娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

事例演習刑事訴訟法 設問3

1.本件取り調べは「強制の処分」(刑事訴訟法(以下略)197条1項)にあたり、実質的逮捕であったため、令状主義(199条1項本文、憲法33条1項)に反し、違法とならないか。

(1)現行刑訴法の「強制の処分」は憲法33条、35条が保障する権利利益を制約する。そうすると、強制処分法定主義の厳格な手続は、それらと同等の権利利益にのみ及ぶと考えられる。よって、「強制の処分」とは、①相手方の意思に反し、②身体住居財産等の重要な権利利益に対する実質的制約を伴う処分をいう。(2)本件取り調べのきっかけとなった本件同行は午後9時という通常は家にいたい時間に行われている。そして、取調べ室の前に警察官がいることは取調べの中断を求めることができるとは考えられない状況といえる。さらに、5日間も取調べを受け続けその間警察共済施設にしか泊まれない者は24時間移動の自由が皆無であるといえる。しかし、本件ではXが任意に同行に応じているため、Xはこれから取り調べを受け続けるということを承諾していたといえる。このような承諾をした者が取り調べにより移動の自由の制約を受けたとしても、その程度は重大ではない。よって、相手方の意思に反する重要な権利利益の制約はなく、本件取調べは「強制の処分」といえないため、令状主義違反もない。

2.もっとも、Xの移動の自由は多かれ少なかれ制約されるため、「必要がある」(198条1項本文)限度で許される。事案の性質、容疑の程度、被疑者の態度等諸般の事情を勘案した上で、社会通念上相当と認められる方法ないし態様および限度で許される。

 本件では、殺人(199条)事件という犯人が死刑にもなりうる重大事件が発生している。また、本件ではXに対する嫌疑が固まっているため、Xが強く犯人だと疑われていたため、Xへの容疑の程度は強かった。そして、Xは本件同行に素直に応じており、Xから供述を引き出させる確実な機会を捜査機関が得たといえ、5日間Xを取り調べる必要性が高かった。

 一方で、確かにXは任意同行に応じているため、移送の自由の制約は少ないとも思える。しかし、Xは午前9時から午後11時という長い取り調べを連日受け続け、それは5日間にも及ぶものだった。よって、移動の自由は著しく制約されたといえる。

 以上を総合すると、社会通念上相当な方法ないし態様および限度といえず、比例原則違反がある。

3.したがって、本件取調べは違法である。

以上