娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

事例演習刑事訴訟法 設問8

第1.BからのUSBの捜索について

1.本件では、A会の東京本部事務所に対する捜索差押許可状(刑事訴訟法(以下略)218条1項)が発付されており、これに基づいてKはBからUSBを捜索できないか。令状による捜索差押えの範囲が問題となる。

(1)令状主義(同項、憲法35条1項)の趣旨は、事前の司法審査によって不当な人権侵害を防止する点にある。場所のプライバシーと身体のそれは別個であるため、場所に対する令状で身体への事前審査がされたといえず、場所に対する令状で身体への捜索はできない。

(2)本件でも、本件令状は場所に対するものであるから、それに基づく上記捜索は許されない。

2.もっとも、上記捜索は「必要な処分」(222条1項本文、111条1項前段)として、許容されないか。

(1)同前段の趣旨は、捜索差押えの実効性確保に必要な付随処分を認める点にある。そうすると、「必要な処分」とは、捜索差押えに①必要かつ②相当な範囲の処分をいう。

(2)本件では、KはBがそわそわしてパソコンから何かを取り出して100mも逃げ出したのを目撃している。これは捜索差押え実施中の出来事であるから、Bは証拠物を隠滅しようとしていたことが強く疑われる。証拠が隠滅されると、捜索差押えを実施できなくなるため、上記捜索は必要性が高かった。

 一方で、確かにKはBの背中を甲同条に押さえつけるという重大な有形力行使をしている。しかし、道路に押さえつけられたとしてもBに怪我をさせたということはなく、KのBに対する有形力行使はやむを得ない程度に収まっていたため、Bの不利益も少ない。

3.以上から、「必要な処分」として上記捜索は許される。

第2.Lが発見したUSB2本とBが持っていたUSBの差し押さえについて

1.本件では、Lは上記USBの内容を確認することなく本件捜索差押許可状に基づきこれらを包括的に差し押さえているため、その適法性が問題となる。

(1)令状主義の趣旨は上記のものである。そうすると、裁判官だけでなく捜査機関も被疑事実と物の関連性を審査すべきであるため、原則として内容の確認をしない包括的差押えは令状主義違反となる。もっとも、「正当な理由」(憲法35条1項)は一義的に決まるものではなく、捜査の必要性と対象者の不利益との衡量において決まる。そうすると、①その物の内容に証拠が存在する蓋然性が高く、②内容確認が困難な事情があれば内容確認のない差押えも許される。

(2)本件でも、原則として許されない。もっとも、USB2本については「重要資料」と書かれた封筒の中に入っていたため、証拠物であるA会の無限連鎖講に関する秘密が記録された媒体が入っている蓋然性が高い。また、上記Bのやましい行動からしてBのUSBも証拠である蓋然性が高い(①)。また、Lがフロッピーディスクを調べたところ、消去ソフトが組み込まれていたため、上記USB3本にも同様の細工がしてある可能性がある。そうすると、証拠確保の見地から内容確認が困難な事情があるといえる(②)。

2.したがって、令状主義に反しないため、上記差押えは適法である。

以上