娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

事例演習刑事訴訟法 設問22

1.本件では、有効な旅券等を所持しないで本邦に上陸した事実について補強証拠を欠き、被告人の自白及び本邦に在留した事実の補強証拠のみで被告人を有罪とすることは、補強法則(刑事訴訟法(以下略)319条2項、憲法38条2項)に反し、「訴訟手続」の「法令違反」(379条)とならないか。

(1)補強法則の趣旨は、自白は事件の全過程を物語り、過度に信用されやすいため、自白偏重による誤判を防止する点にある。そうすると、補強証拠が必要な範囲は、自白の真実性が担保される範囲である。

(2)被告人を不法在留によって有罪とする場合、①本邦に在留した事実、②入国時に有効な旅券等を有していなかったことが要件となるが、本件では①には補強証拠があるのに対し②にはそれがない。不法在留は入国時に有効な旅券等を有しない者のみを例外的に罰する趣旨であるため、①のみでは無色透明の社会的事実である。よって、本件補強証拠は自白の真実性を担保しない。

2.したがって、本件では補強法則に反する「訴訟手続」の「法令違反」がある。

以上

事例演習刑事訴訟法 設問21

第1.覚せい剤について

1.本件では、KがXに対して説得したところ、XはB方に覚せい剤があることを自白し、B方で覚せい剤が差し押さえられている。ここで、Xの自白が「任意にされたものでない疑のある自白」(刑事訴訟法(以下略)319条1項)といえ、Xの自白の証拠能力が否定され、派生証拠である覚せい剤の証拠能力も否定されないか。

(1)自白法則(同項、憲法38条2項)の趣旨は、不任意自白は虚偽の恐れがあり、これを証拠として用いれば誤判が生じるおそれがあるため、それを防止する点にある。そうすると、「任意にされたものでない疑のある」といえるかは、類型的に虚偽の自白を誘発するような状況の有無で判断される。

(2)確かに警察官Kは不起訴権限を有しないものである。しかし、Xは一般人であり、警察官も検察官と同じように不起訴権限を有すると信じてもおかしくない。また、提示された利益は、不起訴という勾留中のXにとって最大の利益である。そして、Kは上記権限を有しないのに不起訴にするという発言をしたことから、自白獲得を意図していたといえ、「隠匿場所を明らかにすれば」と具体的な方法で誘導している。さらに、勾留中のXの疲労は精神的・身体的にも限界を迎えていたため、早く楽になりたいと考えていたと考えられる。そうすると、類型的に虚偽の自白を誘発するような状況があったといえるため、Xの自白は「任意にされたものでない疑のある自白」といえるから、証拠能力が否定される。

 もっとも、派生証拠である覚せい剤については、虚偽のおそれがあるとはいえないため、自白法則によって証拠能力を否定することはできない。

2.そして、本件ではB方への捜索差押許可状(218条1項本文)が発付されているため、令状主義(同項、憲法35条1項)違反がなく、この点から覚せい剤の差押えが違法であるとは言えない。もっとも、上記Xの説得と覚せい剤の差押えはXの起訴という同一の目的にむけられたものである。また、Xの自白を直接利用されて捜索差押許可状の発付がされていることから、本件説得と本件差押えには密接な関連性があり、前者の違法性が後者に承継される。ここで、違法収集証拠排除法則によって覚せい剤の証拠能力が排除されないか。

(1)同法則の根拠は、司法の無瑕性、将来の違法捜査の抑止である。そうすると、①憲法・刑訴法の初期する基本原則を没却するような重大な違法があり、又は②将来の違法捜査抑止の見地から、その証拠を排除することが相当である場合には同法則が適用される。

(2)本件では、確かに覚せい剤事件と重大な犯罪が問題となっており、B方に隠匿された覚せい剤は他に証拠がない本件では重要な証拠であるため、証拠排除が相当とは言えない。しかし、上記趣旨を持つ自白法則という法規からの逸脱は重大である。また、Kは自己に不起訴権限がないことを当然に認識しながらXに対して不起訴にするといっているため、法潜脱の意図もあった。よって、憲法・刑訴法の初期する基本原則を没却する重大な違法があったといえる(①)。

3.したがって、本件覚せい剤の証拠能力は否定されるため、裁判所はこれを証拠とすることができない。

第2.Pへの自白について

1.上記のようにXのKに対する自白の証拠能力は自白法則で否定されるが、Pへの反復自白についても同法則で排除されないか。

(1)同法則の趣旨は上記の物である。反復自白についても証拠能力を排除しなければその趣旨を全うできないため、原則として反復自白の証拠能力は否定されるべきである。もっとも、その趣旨から、不任意性を遮断する特段の措置が取られた場合には例外的に証拠能力が肯定される。

(2)本件では、取調官がKからPへと変更されている。よって、時間的場所的に離れた自白であること、弁護人と接見した事情を考慮して遮断措置があったといえれば例外的に証拠能力は肯定されるため、裁判所はこれを証拠とすることができる。

以上

事例演習刑事訴訟法 設問20

1.本件では、KはXに対して「確実に不起訴にしてやるから」と申し向けた結果、XはCからの10万円の受取りを自白している。ここで、Xの自白は「任意にされたものでない疑のある」(刑事訴訟法(以下略)319条1項)ものといえ、証拠能力が否定されないか。

(1)自白法則(同項、憲法38条2項)の趣旨は、不任意自白は虚偽の恐れがあり、これを用いれば誤判が生じる恐れがあるため、あらかじめ不任意自白を排除しておく点にある。そうすると、「任意にされたものでない疑のある自白」といえるかは、類型的に虚偽の自白を誘発する状況があるかで判断される。

(2)本件では、確かに本件申し向けの主体はKという警察官であり、不起訴の働き掛けをするような権限を持たないものである。しかし、一般人であるXからすれば、捜査機関である警察官にもそのような権限があると考えてもおかしくはない。また、提示された利益は不起訴という有罪を完全に免れることのできる重大なものだった。そして、Kは当然上記権限を持たないから、本件でXに自白をさせようとして本件申し向けにより嘘をついたといえる。更に、Xは15日も勾留されており、精神的にも身体的にも披露は限界を迎えていたため、早く供述をして楽になりたいと考えたといえる。以上を総合すれば、類型的に虚偽の自白を誘発する状況があったといえ、本件自白は「任意にされたものでない疑のある自白」といえ、証拠能力が否定される。

2.したがって、本件自白は証拠能力を欠き、裁判所はXの自白を証拠とすることができない。

以上

事例演習刑事訴訟法 設問19

1.本件では、被告人の否認する6件のベンツに対する器物損壊事件において、被告人の否認する4件のベンツに対する器物損壊事件についての事実という類似事実を用いることができるかが問題となっている。ここで、類似事実証拠の証拠能力が問題となる。

(1)類似事実も要証事実に対して最小限の証明力を有するため、自然的関連性は有する。もっとも、類似事実から悪性格を推認し、悪性格から犯人性を推認するという二重の推認過程は事実認定を誤らせる恐れがある。よって、原則として類似事実証拠は証拠能力を欠く。もっとも、上記推認を経ない場合は例外を認めてよく、①類似事実が顕著な特徴を有し、②それと起訴事実が相当程度類似する時には、証拠能力が認められる。

(2)本件では、被告人の自認する4件の類似事実はa平成26年7月下旬から8月中旬にかけて、午後9時頃から10時頃までの間に、b鎌倉市内の海岸沿いの高級マンションの駐車場に駐車中のcベンツのタイヤを千枚通し様の刃物を刺してパンクさせ、ボンネットをナイフ様のもので「Z」上に傷つける類似事実であった。aについては期間が1か月未満と短い。また、bについては、鎌倉市内という地域の限定が見られる。また、cについては、確かにタイヤをパンクさせることは嫌がらせ目的で通常存在する犯罪である。しかし、ベンツばかりが狙われていること、「Z」というボンネットの傷の形が一致していることからすれば、非常に珍しい犯行であるといえる。よって、4件の類似事実は顕著な特徴を有する(①)。また、それと他の6件である起訴事実は、aという期間、bという場所、cという行為態様において完全に一致するため、相当程度類似ともいえる(②)。

2.以上から、4件の類似事実は例外的に証拠能力を有し、裁判所はそれらを被告人の犯人性の推認に用いることができる。

以上

事例演習刑事訴訟法 設問16

1.本件では、過失運転致死罪の訴因を犯人隠避罪の訴因へ変更する許可が請求されており、両者の訴因に「公訴事実の同一性」(刑事訴訟法312条1項)が認められるかが問題となる。

(1)同項の趣旨は、1個の刑罰権に服する事項につき、2個以上の訴因が構成され、2個以上の有罪判決が生じることを回避するために、二重起訴禁止(338条3号)、一事不再理効(337条1号)の各制度と共に、1個の刑罰権に服する事項を1回の手続で処理させる点にある。そうすると、「公訴事実の同一性」とは、別訴でともに処罰されるとしたならば、二重処罰となるような非両立関係をいう。

(2)確かに両犯罪事実の訴因に記載される時刻・場所は近接する。しかし、過失運転致死罪の行為は漫然と運転したことであるのに対し、犯人隠避罪の行為はYの隠避行為であるため、行為を異にする。また、前者はV個人を死亡させたことに対する罪であるのに対し、後者は刑事司法作用を害する罪であるため、被侵害法益を異にする。したがって、本件では、二重処罰となるような非両立関係はなく、「公訴事実の同一性」があるとはいえない。

2.よって、訴因変更は許容されない。

以上

事例演習刑事訴訟法 設問15

1.本件では、住居侵入罪・窃盗罪の共同正犯(刑法60条、130条前段、235条)についての訴因が掲げられた状態で、その幇助(同62条1項)の事実を認定できるか。訴因変更(刑事訴訟法(以下略)312条1項)がいつ必要になるかが問題となる。

(1)訴因の機能は、裁判所との関係で審判対象を画定し、その範囲でのみ被告人に防御範囲を明示する点にある。そうすると、①審判対象画定の見地から必要とされる事実に変更があった場合については、確実に訴因変更が必要である。また、そうでない事実であっても、争点明確化の見地から、②一般的に被告人の防御にとって重要な事実に変更があった場合については訴因変更が原則として必要である。もっとも、a被告人に不意打ちを与えるものではないと認められ、b認定事実が訴因記載事実と比べて被告人にとってより不利益とならない場合には、例外的に訴因変更は不要である。

(2)本件では、共同正犯の訴因から幇助の事実が認定されており、訴因記載事実の構成要件とは異なる事実が認定されており、審判対象画定の見地から必要とされている事実に変更がある(①)。よって、訴因変更が必要であるとも思える。

2.もっとも、共同正犯の訴因は幇助の訴因を包摂しており、幇助の事実の事実を認定することは許されないか。

(1)訴因記載事実が認定事実を包摂している場合、検察官は黙示的・予備的に認定事実を主張していたといえるため、縮小認定において訴因変更は不要である。

(2)確かに共同正犯は幇助犯の加重類型である。しかし、幇助にはさまざまな態様があり、共同正犯との質的な違いが存在する。そうすると、共同正犯と幇助犯は単純な包摂・非包摂関係にはなく、縮小認定とは言えない。よって、共同正犯の訴因から幇助を認定する際には訴因変更は必要である。

3.したがって、本件では訴因変更が必要である。

以上

事例演習刑事訴訟法 設問14

第1.設問1

1.本件訴因は特定されているか(刑事訴訟法(以下略)256条3項参照)。

(1)訴因の機能は、裁判所に対して審判対象を画定し、その範囲でのみ被告人に対して防御範囲を明示する点にある。そうすると、訴因が特定されているといえるには、①特定の犯罪構成要件に該当すると判定するに足る具体的事実、②他の犯罪事実と区別するに足りる事実の記載を要する。

(2)本件では、XとYがVの頭部を殴打するという行為、死亡するという結果が記載されており、傷害致死罪(刑法205条)という構成要件に該当する事実が記載されている(①)。また、Vの死は社会的に一回であるため、他の犯罪事実との区別も可能である(②)。

2.したがって、本件訴因は特定されているため、訴因が不特定であることを理由としては訴因変更(312条1項)を許可しないことはできない。

以上