娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

事例演習刑事訴訟法 設問21

第1.覚せい剤について

1.本件では、KがXに対して説得したところ、XはB方に覚せい剤があることを自白し、B方で覚せい剤が差し押さえられている。ここで、Xの自白が「任意にされたものでない疑のある自白」(刑事訴訟法(以下略)319条1項)といえ、Xの自白の証拠能力が否定され、派生証拠である覚せい剤の証拠能力も否定されないか。

(1)自白法則(同項、憲法38条2項)の趣旨は、不任意自白は虚偽の恐れがあり、これを証拠として用いれば誤判が生じるおそれがあるため、それを防止する点にある。そうすると、「任意にされたものでない疑のある」といえるかは、類型的に虚偽の自白を誘発するような状況の有無で判断される。

(2)確かに警察官Kは不起訴権限を有しないものである。しかし、Xは一般人であり、警察官も検察官と同じように不起訴権限を有すると信じてもおかしくない。また、提示された利益は、不起訴という勾留中のXにとって最大の利益である。そして、Kは上記権限を有しないのに不起訴にするという発言をしたことから、自白獲得を意図していたといえ、「隠匿場所を明らかにすれば」と具体的な方法で誘導している。さらに、勾留中のXの疲労は精神的・身体的にも限界を迎えていたため、早く楽になりたいと考えていたと考えられる。そうすると、類型的に虚偽の自白を誘発するような状況があったといえるため、Xの自白は「任意にされたものでない疑のある自白」といえるから、証拠能力が否定される。

 もっとも、派生証拠である覚せい剤については、虚偽のおそれがあるとはいえないため、自白法則によって証拠能力を否定することはできない。

2.そして、本件ではB方への捜索差押許可状(218条1項本文)が発付されているため、令状主義(同項、憲法35条1項)違反がなく、この点から覚せい剤の差押えが違法であるとは言えない。もっとも、上記Xの説得と覚せい剤の差押えはXの起訴という同一の目的にむけられたものである。また、Xの自白を直接利用されて捜索差押許可状の発付がされていることから、本件説得と本件差押えには密接な関連性があり、前者の違法性が後者に承継される。ここで、違法収集証拠排除法則によって覚せい剤の証拠能力が排除されないか。

(1)同法則の根拠は、司法の無瑕性、将来の違法捜査の抑止である。そうすると、①憲法・刑訴法の初期する基本原則を没却するような重大な違法があり、又は②将来の違法捜査抑止の見地から、その証拠を排除することが相当である場合には同法則が適用される。

(2)本件では、確かに覚せい剤事件と重大な犯罪が問題となっており、B方に隠匿された覚せい剤は他に証拠がない本件では重要な証拠であるため、証拠排除が相当とは言えない。しかし、上記趣旨を持つ自白法則という法規からの逸脱は重大である。また、Kは自己に不起訴権限がないことを当然に認識しながらXに対して不起訴にするといっているため、法潜脱の意図もあった。よって、憲法・刑訴法の初期する基本原則を没却する重大な違法があったといえる(①)。

3.したがって、本件覚せい剤の証拠能力は否定されるため、裁判所はこれを証拠とすることができない。

第2.Pへの自白について

1.上記のようにXのKに対する自白の証拠能力は自白法則で否定されるが、Pへの反復自白についても同法則で排除されないか。

(1)同法則の趣旨は上記の物である。反復自白についても証拠能力を排除しなければその趣旨を全うできないため、原則として反復自白の証拠能力は否定されるべきである。もっとも、その趣旨から、不任意性を遮断する特段の措置が取られた場合には例外的に証拠能力が肯定される。

(2)本件では、取調官がKからPへと変更されている。よって、時間的場所的に離れた自白であること、弁護人と接見した事情を考慮して遮断措置があったといえれば例外的に証拠能力は肯定されるため、裁判所はこれを証拠とすることができる。

以上